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古民家の自然換気(40)土壁の修復④荒壁つけ

前回、土壁の下地を作るべくエツリ(小舞掻き)を行いました。

このエツリ(竹小舞)に壁土をつけて荒壁を作り、その後、中塗り、上塗りと順に行って土壁を仕上げることになります。
このうち荒壁が土壁の本体となる部分で、作業量も次のとおり多くなります。

  • 荒壁つけ
  • 裏返し
  • 貫伏せ
  • 大直し

このため、数回に分けて行う必要があるのですが、今回は中途半端な状態になっている既存の壁と一体化する必要がありため、これを考慮して作業を進めていかなければなりません。
そこで、まずは先般エツリを行なったところ(新たに設けた貫の下部)に母屋側から壁土をつけることにします(下図で朱色着色箇所)。

作業場所の真下には台所のシステムキッチンがあるため、養生や足場の確保で作業は苦労しそうです・・・。
さらに土壁(垂れ壁)の下屋側にはレンジフードまであり、現状では壁前に立つことさえできません。
そこでレンジフードの前面カバーなどを取り外して最小限の作業スペースを確保しておきます。

レンジフード上部のダクト配管箇所は、石膏ボードで覆いが作られていたのですが(上写真でクロスが貼られていない部分)、今回、養生を行なった機会に解体・撤去しました。
上部のダクト配管が丸見えの状態になったものの、レンジフードの清掃・点検がやりやすくなったのではないかと思います(ダスキンなどに頼まず自ら行いますので、見た目より清掃・点検のしやすさ重視です)。

作業スペースを確保できたところで、次に壁材の準備です。
壁土は3年前の改修工事(減築箇所)で発生したものが残っていますので、これを使います(いろいろと使いましたが、今回で全て使い切る予定)。
スサ用の藁も、屋根裏に断熱用として敷かれていたムシロを再利用します(100年以上前のもの)。

壁土は上写真のとおり茶色く、山で土取りしたと思われる粘性土です。
ネットで壁土の写真を検索すると、田圃の土のような灰色のもの(荒木田土)を見かけることが多いですが、それらとは異なります。
ところで、当地には古代(古墳〜鎌倉時代)に土師器や須恵器が生産されていた古窯趾があります。
また、戦後まで瓦の製造も行われており、当地の名前が入った瓦が京都の寺院などで使われていると聞いたこともあります。
このように製陶が盛んだったのは近くで原料となる粘土が入手できたわけで、同様に壁土用の粘性土も容易に山から採取できたのでしょう。
山裾などで不自然な地形になっているところを見かけることがありますが、ひょっとすると壁土を採取した跡なのかもしれません。

さて、スサ用の藁を刈り込み鋏で短く切って投入し、水を加えてコネます。

土・スサ・水の配合については、コンクリートのように厳密にしなくとも自然素材だけあって感覚で良い具合を掴めます。
と言いつつ、スサを入れすぎてしまいコネづらくて大変・・・。

こうしてコネた壁土を中塗り鏝を使ってエツリにつけて均します。

もう1面も同様に。

「素人にしては上出来ではないか」と満足(^_^)
しかし、以前に左官屋さんから指摘を受けたのですが、荒壁つけの段階で、このように平滑に仕上げる必要はないそうです。
逆にもっとラフにして、次の大直しや中塗りとの結合が高まるようにすべきだとのことでした(^_^;
私のような素人は、やる必要のないところで無駄に綺麗に仕上げて満足し、その一方で肝心の仕上げ塗りでダメダメの結果になってしまうと言う・・・。

さて、最後に裏撫で行うのを忘れてはなりません。
先に作業スペースを確保したレンジフードと丸太梁との間から入ります。
壁土をつけた反対側はエツリの隙間からヘソが出ていますので、それをコテを使って撫で返しておきます。

裏撫でしたことでエツリとの固着がより強固になったことでしょう。

<続きます>

古民家の自然換気(39)土壁の修復③エツリ(小舞掻き)

前回、既存の土壁を支える形で新たに貫を設けました。

この貫は、再設する土壁の下地を固定する役割も担うことになります。

土壁の下地は竹を編んで作り、そのことを当地では「エツリ」(小舞掻き)と呼んでいます。
エツリには割竹を用いますが、そのエツリを固定するために「ヒダチ」(間渡し竹)と呼ばれる直径5分程度の丸竹を柱間及び上下間(今回の場合は貫と丸太梁の間)に配置します。

ヒダチは当地では尺5寸(45cm)間隔で配置されていますが、今回は下地自体の強度を上げるため1尺(30cm)間隔で配置しています。

このヒダチを組むことから始めます。
竹材は昨冬に里山で伐採したものを保管してありますので、それを使います。

エツリ用の竹については、既に割って節を取り除いてあります。

ヒダチを必要な長さで切断し、先の図のとおり取り付けます。

ヒダチの取り付けは、垂直方向については貫や丸太梁に釘を打ち、それが竹筒内に入るようにしています。
一方の水平方向(柱間)については、より確実(1箇所当たり大きい力が作用するため)にすべく左右の柱にドリルで穴(直径15mm)をあけ、その穴に竹をしならせて挿し込んでいます。

こうして組んだヒダチに対してエツリを行います。

エツリは、昔は藁縄を使って編むのが一般的だったようですが、手元にないため造園用のシュロ縄(しかも黒染め)を使っています。
エツリ竹同士は指1本分の間隔をあけ、この隙間により壁土がしっかりと食い付くことになります。

出来上がったものを見ると複雑そうに見えますが、意外に簡単で私のような素人にも十分にできる作業です。
ひと昔前まで、建前の後にエツリから荒壁つけまでは自ら(近所や親類での共同作業:結い)で行ったと聞きますが、実際にやってみるとそのことがよくわかります。

たまたま壁の背後にある照明を点けたところ、エツリの網目から光が漏れて良い感じになりました。

竹天井(上写真で右側)もそうですが、日本家屋と竹はやはり相性が良いようです。

<続きます>