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文机の再生(2)摺り漆(拭き漆)

古い文机をテレビ台として再利用するため、前回、傷みの酷かった天板を取り替えました。

新しく取り付けた天板も古材の再利用のため、傷や汚れをとるべくサンダーをかけました。
サンダーがけにより傷や汚れだけなく塗膜(摺り漆)も剥がれ、素地が現れた状態になっています。
このため、天板(素地)と机の下部(摺り漆仕上げ)で色が違っています。

天板の素地を保護するため何らかの塗装をして仕上げることにしますが、この塗装によって机の下部と色を合わせたいところです。
となると、やはり当初と同じように摺り漆で仕上げるのが良さそうです。

漆塗りと聞くと、日本の伝統工芸的なもので、とても素人が手を出せるものではないと思ってしまいます。
しかし、漆塗りには高度な塗り方がある一方、誰でもできる容易な塗り方もあると聞きます。
その一つが「摺り漆(拭き漆)」で、木工の入門書などでも取り上げられることが多く、それらを読んではいつかは試してみたいと思っていました。
ちょうど良い機会ですので、今回、摺り漆に挑戦してみることにします。

摺り漆に必要になる材料をネットショップ(堤淺吉漆店さま)で購入。

購入した材料は、生漆(上写真でチューブに入っているもの)、テレピン油(缶に入っているもの)及び摺り紙(ケーク紙、ボロ布で代用可)です。
もちろん生漆がメインで、今回は別にも塗布したいものがあるため100g入り(塗布面積の目安:約1畳)のものを購入しました。
中国産の普及品ですが、それでも100gで2,500円弱と一般的な塗料に比べて別格です(国産品はさらに2、3倍の価格)。
昔「金持ちは漆塗り、貧乏人は柿渋」と言ったそうですが、漆は今も昔も高級品です。
我が家にお似合いなのは柿渋ですが、今回は贅沢してみることにします^_^

また、材料とともに全国漆業連合会発行のリーフレット『うるしと塗り読本』も購入しました(木工入門書の記載もこれをベースにしているようです)。

このリーフレットの摺り漆の項を読むと「摺り漆の良し悪しは素地で決まる」とありますので、改めて紙やすり(400番手)をかけて素地調整を行なっておきます。
目止め(濃淡を防止したい場合に実施)については、①柿渋、②砥の粉、③生漆などを使って行う方法が紹介されています。
今回は扱いに慣れた柿渋を塗布して目止めを行なっておきます(下写真は柿渋の塗布直後)。

摺り漆の方法については販売店の方にも色々と教えていただきました。
摺り漆は最低でも3回以上摺り込みますが「樹種にもよっては最初から原液を使うと漆を吸いすぎて黒っぽくなってしまう」とのこと。
私自身が漆初心者であることを考慮して「最初はテレピン油で30%程度希釈したものを用い、徐々に減らして4回目以降原液のまま使うようにしてはどうか」との助言をいただきました。
アドバイスをもとにテレピン油で希釈して1回目の摺り込み(下写真は摺り込み直後の状態)。

漆はカブレる恐れがあり、ゴム手袋をしているため作業中の写真がありませんが、思っていた以上に漆が伸びて容易に作業できました(難しく感じることは特にありませんでした)。

上写真では変化がないようですが、翌朝には下写真のとおり赤く変色していることがわかります(照明の影響もあります)。

漆の乾燥は一般の塗料とは異なり、漆に含まれる酵素(ラッカーゼ)の働きにより行われますが、この酵素が最も働くのが温度20℃前後、湿度80%前後で、その場合、数時間で乾燥するそうです(温度や湿度が高すぎたり低すぎたりすると乾燥しない)。
今回の場合も、翌朝(約10時間後)には問題なく乾燥して表面にベタつきがない状態になっていました。

1回目の摺り込みから丸1日(24時間)後、2回目の摺り込みを行うことにします。
表面を軽くヤスリがけ(#400)したうえ、テレピン油の配合を1回目より減らして摺り込みます。

さらに1日後、同様に3回目の刷り込み。

漆塗りは順調に進んでいる一方、昨日ぐらいから腕が妙に痒く、その部分が徐々に赤く腫れてきました・・・。

見事に漆にカブレてしまったのです(涙)
作業時にはゴム手袋を着用していたものの、半袖で作業していたため露出箇所がカブレたわけです。
カブレ方をみると、塗布時に触れたのではなく、ヤスリがけする際に机に接触したのがいけなかったようです。
山の近くで生活し、これまでウルシやハゼノキに酷くかぶれたことがなかったこともあり、漆を甘くみていたらこの有り様です・・・。
その後1週間程度で治りましたが、ピーク時の痒さはなかなかのものがありました。
先のリーフレットには「平常の体質であれば、慣れて免疫がつくので神経質になることはない」とありますので、この痒さも漆を扱ううえで越えねばならないハードルなのかもしれません。

今さらですが長袖の作業服を着用して4回目の摺り込み。

私的には十二分の仕上がりになったと感じますので、4回の摺り込みで完了とします。

天板のパテ埋め箇所や埋め木箇所は、最終的には下写真のとおりになりました。

パテ埋め箇所が周囲と近い色になる一方、埋め木が黒く変色して目立つようになりました。
埋め木にはホームセンターで購入した丸棒を使ったのですが、漆を吸い込みやすい柔らかい樹種だったようです(天板の端材から埋め木用のダボをとるのがベストだと思います)。

天板以外のところを亜麻仁油で磨いて完成です。

テレビをセット。

テレビが邪魔ですね・・・。

漆にカブレて痒い思いをしましたが、下写真の当初の状態と比べると手を入れた甲斐があったと感じます。

抽斗の中は埃っぽくなっていたので、柿渋を塗布しておきました。

抽斗のなかにリモコンを収納するようにすればスッキリ片付きます。

エアコン設置壁の仕上げ塗りテレビ(アンテナ線)設置、そして今回の文机再生を行い、とりあえずは避暑部屋の完成です。

古い文机を再生させ、祖父の思い出の品として使っていけることになりました。
こうして古いものを再生させる一方、使い道のないものは処分して少しずつ整理していっています。
昨夏は曽祖母の長持ち(下写真。輿入れ道具のひとつ)を解体してボイラーの燃料にしました。

曽祖母と言うことは祖母の長持ちも残っているわけですが、祖母のものも解体することにして土蔵から出してきました。

以前、土蔵2Fには下写真(奥に巨大なスズメバチの巣が・・・)のとおり4竿の長持ちがドラキュラの棺桶の如く置かれていたのですが、これで全て無くなって片付きました。

土蔵2Fが片付いたため、いずれ床板を外して竹を並べて夏季の寝床にしたいと思っています。

さて、解体する祖母の長持ちですが、側面に祖母の実家のものと思われる家紋(三ツ柏)が描かれています。

良いものなのでしょうが、残しておいても死蔵するだけですので思い切って解体。

板厚があれば工作材にするところですが、薄板のため全てボイラーの燃料とします。
ボイラーの燃料は冬であれば山からいくらでもとってくることができますが、夏はそうもいきません。
燃料が不足する夏に、こうした解体材が良い燃料になってくれます。
この長持ち一つで、ひと夏のボイラーの燃料(風呂の給湯やシャワー)を賄える程度ありますので有難いものです。

「腐っても鯛」と言うとおり、昔のものは処分する段になっても燃料などとして使えます。
このため、このようなものでも先祖が残してくれた資産と有り難く感じられなくもありません。
一方、現在のものは古くなればゴミとして処分せざるをえないものがほとんどです。
しかも、その処分にはエネルギーや環境負荷を伴うことを考えれば、未来の世代にとって資産どころか負債にならざるをえないのではないかと心配になります。

文机の再生(1)天板を取り替え

前回、新たに購入したテレビ(19インチ。スタンドが欠品の訳あり商品)のスタンドを自作し、ミシンテーブル上に配置しました。

もともとミシンテーブルに置いてあったテレビ(36インチ)は畳の間に移し、そのテレビ台として古い文机を再利用することにしました。

この文机は、祖父が学生のときに勉強机として使っていたものです。
祖父(明治37年生まれ)が学生だったのは大正時代に当たりますが、この古机もそれとなく大正ロマンを彷彿させるデザインです。

ただ、残念なのは天板の傷が酷いことです。
この机が野口英世のような偉人のものであれば机の傷も苦学の痕跡になるかもしれません。
しかし、祖父はボンボンの道楽人だったと聞きますので、傷や汚れはヤスリで削るなどして無くしてしまいましょう^_^

ところで、亡き父も同じような勉強机を持っていました。
しかし、父の勉強机は倉庫に置いてあったため(祖父のものは土蔵内)、下部が虫にやられて使える状態ではなく、天板だけは工作の材料として使えるかもしれないと残してあります。
父は勉強には興味が無かったとみえ、天板については祖父のものより傷が少なく良好な状態です。
天板のサイズは同じぐらいですので、天板だけを父のものに取り替えると良さそうです。

祖父のものより良好と言っても、細かい傷が無数にあるうえ汚れてもいます。
そこで、傷が目立たない程度までサンダーをかけます。

サンダーがけにより塗装(摺り漆)が剥がれたことで、無垢の一枚板であることが良くわかるようになりました。
たかが子供の勉強机に、このような一枚板(幅約50cm)を使えるほど昔は太い木があったわけです。

天板には小さい穴(釘を抜いた跡)がいくつかあるため、それらを木工用パテで埋めておきました(下写真はヤスリがけ前の状態)。

また、辺材部は虫喰いがあり、天板のサイズがひとまわり小さくなることを承知の上で4辺をカット。
カットした4辺を面取りするため、トリマーを使って飾り加工を施します。

こうして虫喰い部分をカットしたものの、それでも一部に虫喰い跡が残ります(これ以上のカットは、脚のサイズに対してアンバランスになってしまうため難しいです)。

パテ補修を試みるも、こうした場所はなかなかうまくいきません。
とりあえず、これで良しとします・・・。

パテは速乾性のためシンナーで濡らしながら作業しているのですが、シンナーで濡らしただけで木肌に毛羽立ちが生じているのが上写真でもわかります。
樹種は不明ですが、毛羽立ちがとても大きい樹種のようです。

仕上げの塗装は元々と同じく摺り漆にて行いたいと考えていますが、毛羽立ちが大きいため、この段階で一度柿渋を塗布して毛羽立ちを抑えることにします。

2年前に仕込んだ柿渋(上写真)を使ってみようと取り出してきましたが、少し色が薄いため市販のものと混合して全面に塗布。

生じた毛羽立ちを、乾燥後に軽くヤスリ(400番手)をかけて取っておきます。

父の机(天板)のほうの作業は一旦置いておき、祖父の机の作業に移ります。
まずは傷が酷い天板を取り外します。

下写真が取り外した天板ですが、裏面中央の隠れる部分は塗装されていません。
その境界部を見ると、多分「柿渋+摺り漆」で仕上げられているようです。

釘が錆びて効いていないところがありますので、この機会に打ち直しておきます。

天板と脚とは釘留めにより固定されており、釘頭が表面に現れないように埋木が施されていました。
同じ方法で天板と脚を固定することにし、補修した天板に埋め木用の下穴(φ6mm)をあけます。

この下穴のなかに釘を打ち込んで脚と固定します。
そして、埋木として丸棒(φ6mm)を叩き込み、飛び出した部分をアサリ無し鋸を使って切り取ります。

ヤスリをかければ凹凸が無くなって、見た目も目立たなくなります。

パテ埋めしたところ(当初の埋木箇所)のほうが目立ちますね。

とりあえずこんな感じになりました(柿渋を塗布してあるため徐々に色がついてきています)。

天板の下には2つの抽斗がありますが、その取っ手が無くなっていたので、適当なサイズのもの(12×77×16mm)をホームセンターで買ってきて取り付けました。

ところが、抽斗を開け閉めしてみると閉める際に奥に入り込んでしまうことが判明。
取り外した天板の裏面を確認してみると、抽斗のストッパーなどの細工が施されています。

同じものを新しい材で作り直して取り付けます。

抽斗がスムーズに開閉してピタリと収まると気持ち良いものです。

あとは、塗装などの仕上げ作業です。